「Dolby Atmos対応」と書かれていても、5.1chと何が違うのかまで説明されることはほとんどありません。スピーカーが増えただけ、と思われがちですが、変わったのは数ではなく音の記録のしかたです。この記事ではその考え方の違いと、それが座席選びにどう効くかを説明します。
5.1chは「行き先」を決めて記録する
5.1chは、前の左・中央・右、後ろの左・右、そして低音用の計6系統に音を割り振る方式です。制作の段階でどのスピーカーから出すかが決まった状態で音が入っています。
そのため、劇場のスピーカーが何本あっても、割り当ての考え方は変わりません。大きな劇場では同じ系統の音を複数のスピーカーで鳴らすことになります。位置を細かく指定するには限界がある方式です。
Dolby Atmosは「位置」を決めて記録する
Dolby Atmosでは、個々の音をオブジェクトとして扱います。「この音は、空間のこの位置で鳴る」という情報を持たせて記録するという考え方です。
再生する側、つまり劇場が、自分のスピーカー配置を使ってその位置を作ります。スピーカーが多い劇場でも少ない劇場でも、目指すのは同じ「位置」です。行き先ではなく座標で持っているから、環境が違っても再現できる。ここが根本的な違いです。
天井スピーカーが加わる意味
5.1chには上下の情報がありません。スピーカーがすべて耳の高さの周りに並んでいるからです。
Atmosでは天井にもスピーカーが入ります。ヘリコプターが頭上を通り過ぎる、雨が上から降ってくる、天井の高い空間の反響を感じる。こうした表現は、上に音源がなければ成立しません。「音が立体的になる」と言われるときに実際に起きているのは、この一次元の追加です。
座席で聞こえ方が変わる理由
位置を再現する方式である以上、どこで聴くかが結果に効きます。設計上の基準になるのは、部屋の中央付近です。
中央から離れるほど、近いスピーカーの音が相対的に強くなり、意図された位置からずれて聞こえます。特に壁際の席は、側面のスピーカーが至近距離になるため影響が大きい。前方の端の席は、画面との角度もあって二重に不利です。
狙うなら中央ブロックの中ほど
左右は中央ブロック、前後は中央よりやや後ろ。これがAtmosの設計にいちばん近い位置になります。天井スピーカーの効果も、真下に偏らないぶん自然に感じられます。
座席の考え方そのものは通常の上映と共通しますが、Atmosでは左右方向のずれの影響が大きいという点だけ覚えておくと選びやすくなります。
Dolby AtmosとDolby Cinemaは別のもの
紛らわしいのがこの二つです。Dolby Atmosは音響方式の名前で、Dolby Cinemaは劇場のブランドです。
Dolby Cinemaは、映像のDolby Vision、音響のDolby Atmos、そして内装を含む劇場の設計をまとめたものを指します。つまりDolby CinemaにはAtmosが含まれますが、Atmos対応の劇場がDolby Cinemaとは限りません。
「Atmos対応」とだけ書かれている劇場は、音響がAtmosというだけで、映像や内装は通常のスクリーンと同じです。料金も違ってきます。
まとめ
要点は四つです。
- 5.1chは行き先、Atmosは位置で音を持っている
- 天井スピーカーが加わることで、上下の表現ができるようになった
- 座席は中央ブロックの中ほどが設計に近い。壁際は位置がずれる
- Dolby Atmosは音響方式、Dolby Cinemaは劇場ブランド。別のもの
